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「この人となら話せる」と感じる意味

治療同盟という、見えにくい力について


カウンセリングというと、

「何を話すか」

「どんなアドバイスをもらうか」

「自分に合う方法は何か」

そうしたことが、まず思い浮かぶかもしれません。


もちろん、それらは大切です。

けれど実際には、その前にもうひとつ、大事なことがあります。

それは、

「この人となら話せる気がする」

「一緒に考えてもらえそうだ」

という感じです。平たく言うと相性ですが、深く研究されています。


心理療法の世界では、こうした土台を 治療同盟 と呼びます。もともとは、クライアントとカウンセラーが、何を目指すのかを共有し、どんなふうに進めるかについて納得し、そのうえで信頼の絆が育っていく関係として考えられてきました。 「ただ話を聞いてくれる人」ではなく、

「自分のつらさを一緒に見ていこうとしてくれる人」と出会えること、

それが治療同盟のはじまりです。


そして、この関係は、単なる“感じのよさ”では終わりません。

海外では、成人の心理療法を対象にした大規模なメタ分析で、治療同盟は治療の結果と安定して関連し、その関連は対面でもオンラインでも、おおむね一貫していることが報告されています。治療関係は特定の技法とは独立して、結果にかなり大きく寄与すると整理されています。


ここで大切なのは、

「相性がよければ何でもよい」という意味ではない

ということです。


治療同盟には、あたたかさだけでなく、

「何に困っているのか」

「今は何を目標にするのか」

「この時間をどう使うのか」

を、少しずつ一緒に確かめていく面があります。


たとえば、

「職場に行けないことを何とかしたい」のか、

「人前で張りつめてしまう感じを和らげたい」のか、

「恋人や友人の前で、無理をしすぎる自分を見つめたい」のか。


同じ“つらい”でも、向き合いたいことは人によって違います。

そこが曖昧なままだと、相談に来た側は、

どこへ連れて行かれるのか分からない不安を抱えやすくなります。

日本の臨床でも、目標や進め方の合意が不十分だと、クライアントは「行くつもりのない場所へ連れて行かれる」ように感じうることが指摘されています。

お話をうかがっていると、

表面には「仕事に行けない」「やる気が出ない」「考えすぎてしまう」といった困りごとがあっても、

その奥には、もっと繊細なものが横たわっていることがあります。


ちゃんとしなければ、と思うほど苦しくなること。

期待に応えようとするほど、自分の気持ちが分からなくなること。

誰かに頼りたいのに、頼った瞬間に迷惑をかけてしまう気がすること。


こうした苦しさに対しては、言葉をすぐに見つけられるとは限りません。

むしろ、うまく言葉にならないまま、長く胸の中に置かれてきたからこそ、カウンセリングに来るまでになったのでしょう。


だからこそ、カウンセリングでは、

“内容”だけでなく、

「この人の前でなら、少しずつ自分の中に近づける」

という関係そのものが大切になります。


日本でも、治療同盟を測る日本語版尺度が整えられ、同盟の質を高めるために、共感や協同作業にかかわるセラピストの振る舞いを具体的に検討する研究が行われています。つまり、安心して話せる感じは、ただ曖昧な雰囲気ではなく、心理療法の大切な要素として丁寧に考えられているのです。

成人うつ病の CBT において、治療の初期だけを見ると技法の影響が大きい場面もある一方、終結時までの変化を見ると、治療同盟が結果を予測していたとまとめられています。方法が大切であることは確かですが、関係は背景ではなく、変化を支える一部そのもの だと言えます。


カウンセリングで起きる変化は、

いつも劇的ではありません。


最初は、

「何から話していいか分からない」

「こんなことで相談していいのか分からない」

というところから始まることもあります。


けれど、決まった時間に会い、

急がず、押しつけず、

その人の言葉の速さに耳を澄ませていくうちに、

少しずつ輪郭の出てくる気持ちがあります。


「あのとき、本当は傷ついていた」

「ずっと平気なふりをしていた」

「私は助けてほしかったのかもしれない」


そんなふうに、

自分でもまだ知らなかった自分に、

静かに出会っていくことがあります。

治療同盟とは、

その出会いを支える、見えにくいけれど確かな力です。

話す内容に意味があるように、

“この人となら話せる” と感じられることにも、ちゃんと意味がある。

私は、そのことをとても大切に思っています。


かまくら相談室では、

すぐにうまく話せることよりも、

その人がその人のままで、この場にいてよいと感じられることを大切にしています。


何を目指したいのか。

今はどこまで触れられそうか。

どんなペースなら無理がないか。


そうしたことを、ひとつずつ確かめながら、

一緒に考えていきます。


もし今、

「相談したいけれど、うまく話せる気がしない」

「気持ちはあるのに、言葉が追いつかない」

そんな思いを抱えているなら、

そのこと自体を、最初の言葉にしていただいて大丈夫です。


カウンセリングは、

整った言葉を持っている人だけの場所ではありません。

まだ形になっていない思いを、

あわてずに見つめていくための場所でもあります。

 
 
 

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