イライラの分析
イライラする。
家族のちょっとした言葉に腹が立つ。仕事を中断されると、いつも以上に苛立つ。予定通りに物事が進まないだけで、イライラする。
そんなとき、「もっと穏やかにならなければ」と思う人もいるかもしれません。
けれど、イライラそのものを悪いものとして抑え込む前に、
「今、自分の中では何が起きているのだろう」
と少し考えてみることも大切です。いろいろな可能性があります。

単純に疲れていることもある
まず確認してみたいのは、とても普通のことです。
寝不足かも。空腹かも。仕事が大変かも。一人の時間がないかも。
人の心は体にくっついています。脳も体です。
普段なら気にならないことでも、体が疲れていると腹が立つことがあります。
こういうときには、心の深い意味を探すより、眠ることや休むことの方が必要かもしれません。

思い通りにならないことへのイライラ
私たちは誰でも、自分なりの予想や他人への期待を持って生活しています。
「このくらいは分かってほしい」「こうしてくれるはずだ」「今日はこれを終わらせたい」
ところが、現実はなかなかその通りにはなりません。
人も、自分の思い通りには動いてくれません。
そのときに生まれるのが、単純な欲求不満としてのイライラです。
こんなときは「私は何を期待していたのだろう」
と気づく手がかりになります。

なぜか、この人にだけ腹が立つ
もう少し不思議なイライラもあります。
同じことをされても平気な人もいるのに、あの人から言われると妙に腹が立つ。
深層心理学では、このような強い感情反応の背後に「コンプレックス」が動いていることがあると考えます。
たとえば、
「自分は大切にされない」「いつも我慢させられる」「自分の自由を奪われる」
という経験が心の中に強い【わだかまり】としてあると、小さな出来事が、昔の大きな感情を一緒に呼び起こすことがあります。
すると、今の出来事以上に腹が立つ。
そんなときには、
「今の出来事だけに怒っているのだろうか」
と考えてみる余地があります。

自分が我慢していることを、他人がしている
人に対するイライラには、他にも興味深い面があります。
たとえば、
自由に振る舞う人を見ると腹が立つ。休んでいる人を見ると腹が立つ。はっきり自己主張する人が苦手。
そんなとき、その人が本当に無礼である場合ももちろんあります。
ただ、
「自分自身は、それを自分に禁じている」
ということもあります。
自分が長い間抑えてきた部分を他人の中に見ると、強く反応することがあります。
心理学者のユングは、普段の自分から切り離されているこうした部分を「影(シャドー)」と呼びました。
イライラする相手が、自分の知らない自分を少しだけ見せてくれていることもあります。

「ちゃんとした自分」を続けすぎている
「いつも穏やかでなければならない」「人に迷惑をかけてはいけない」「弱音を吐いてはいけない」
と、ある役割を長く続けすぎると、役割を演じている自分が窮屈になってくることがあります。
「一人になりたい」「もう何もしたくない」「好きなことだけしていたい」
そんな気持ちが、最初はイライラという形で現れることもあります。
だからといって、全部投げ出せばよいわけではありません。
ただ、
「私は最近、何を我慢しすぎているのだろう」
と考えてみる価値はあります。

外に向かうより、内側に向かいたいとき
人には、ときどき外の世界から少し離れたくなる時期があります。
人と会うより一人でいたい。新しいことをするより、ぼんやり考えていたい。忙しく動くより、自分の心に向き合いたい。
そんなときに、電話が鳴る。仕事が入る。家族から声をかけられる。会合に出席しなきゃいけない
すると、普段なら何とも思わないことにまでイライラすることがあります。
相手が嫌いなのではなく、
自分の心が今、外ではなく内側へ向かいたがっている
のかもしれません。
こうした時間も、人には必要なのだと思います。

今の生活を壊したくなるほどのイライラ
「全部やめたい」「ここから逃げたい」「今までの生活を壊してしまいたい」「ここでない遠くに行きたい」という強い気持ちが出てくることもあります。
もちろん、疲れやストレスが限界に達している場合もあります。
一方で、長く続けてきた生き方が、今の自分に合わなくなっていることもあります。
人は変化するとき、必ずしも最初から
「私はこう変わりたい」
と分かるわけではありません。
むしろ最初は、
「なんとなく今のままでは嫌だ」「妙に落ち着かない」「理由は分からないけれど腹が立つ」
という形で始まることがあります。
だから、イライラをすぐに消そうとするのではなく、
「何がもう合わなくなっているのだろう」
と考えることもできます。

イライラをなくすより、少し知ってみる
イライラにはいろいろなものがあります。
疲れている。思い通りにならない。昔からの傷つきが刺激されている。自分の中の抑えてきた部分が動いている。一人になる時間が必要になっている。これまでの生き方そのものを見直す時期に来ている。
いくつかが同時に重なっていることもあります。
大切なのは、
「イライラしてはいけない」
とすぐに自分を抑えることでも、
「これが本当の自分なのだ」
とすぐに結論を出すことでもないと思います。
少し立ち止まって、
今日は、なぜこんなにイライラしているのだろう。
そう問いかける。
イライラは、ときに、自分でもまだ言葉にできていない心の状態を知らせてくれるものなのかもしれません。



