職場における適応障害
- 沢雄司

- 2020年4月14日
- 読了時間: 9分
更新日:4月14日
仕事に行こうとすると辛くなる
職場ストレスと適応困難は、心の弱さではありません

「朝になるとお腹が痛くなる」
「職場のことを考えると眠れない」
「上司の顔を見るだけで体がこわばる」
「異動してから、ずっと自分らしく働けない」
「もう頑張れないのに、休むことにも罪悪感がある」
こうした仕事や職場に関するご相談は多いです。働いている方のご相談の中でも、中心的なテーマの一つと言ってよいでしょう。職場で苦しくなっているとき、多くの方はまず、
「自分の我慢が足りないのではないか」
「社会人なのだから乗り越えなければならない」
「周りも頑張っているのに、自分だけつらいのはおかしい」
と考えてしまいます。
けれど、実際にはそうではありません。仕事に行こうとすると身体が動かなくなる、不眠や食欲低下が続く、涙が出る、集中できない――そうした状態は、こころと身体が限界に近づいているサインであることが少なくありません。

職場ストレスは、気合いで片づけられるものではありません
仕事の場では、多くの人が何らかの役割を担っています。責任ある立場、周囲に配慮する立場、期待に応えなければならない立場。その役割に応じて、私たちはある程度、自分の感情を抑えたり、無理をしたりしながら働いています。
それ自体は社会生活の一部ですが、問題は、その無理が長く続き、「役割を果たす自分」だけで生きるようになってしまうことです。
「本当はつらい。」「本当は腹が立っている。」「本当は悲しい。」「本当は向いていないと感じている。」「本当は休みたい。」しかし、それを感じることも許せず、「ちゃんとやらなければ」「ここで弱音を吐いてはいけない」「自分さえ我慢すればいい」と頑張り続けていると、心身は別の形で限界を訴え始めます。
腹痛、頭痛、動悸、不眠、朝の強い落ち込み、出勤前の涙、職場に向かえない感じ。それらは単なる甘えではなく、抑え続けてきたものが、症状という形で現れているとも言えるでしょう。

「仕事の問題」でもあり、「自分の内面の問題」でもある
職場の悩みについて相談すると、「それは環境が悪いのだから、心の問題ではない」と感じる方もいます。
たしかにその通りです。ハラスメント、過重労働、人間関係の悪化、役割の不明確さ、評価への恐怖など、環境の側に問題がある場合は少なくありません。そのときに必要なのは、単なる気の持ちようではなく、現実的な環境調整です。
一方で、同じような状況の中でも、ある人は何とかやり過ごせても、ある人は深く傷つき、何度も同じような苦しさを繰り返すことがあります。そこには、その人なりの内的な反応パターンが関わっていることがあります。
たとえば、
期待に応えすぎてしまう
断れない
怒りを感じる前に自分を責める
権威のある相手を必要以上に怖れてしまう
「役に立つ自分」でいなければ価値がないと感じる
限界まで頑張ってからしか休めない
こうした傾向があると、環境が変わっても別の場面で同じ苦しさが再燃しやすくなります。
そのため、職場ストレスへの支援では、環境をどう整えるかと、自分の反応パターンをどう理解し変えていくか、この両方を扱うことが大切です。どちらかではなく、両方です。

ユング心理学から見ると、症状は「魂の抗議」
ユング派の視点では、仕事上の適応困難を、単に能力不足や気分の問題としてだけではなく、役割と本来の自分とのズレが大きくなったときに起こる心の反応として理解することがあります。
社会の中で生きる私たちは、役割を持ちます。職場での顔、責任ある立場、周囲に合わせるふるまい。それは必要なものですが、その役割と自分自身が完全に一体化してしまうと、心は次第に息苦しくなります。
「働ける自分でなければならない」
「期待に応える自分こそが自分だ」
「役割を果たせないなら価値がない」
このように、役割そのものが自分の全てになってしまうと、本来大切にしたい価値観や感情、限界の感覚が抑え込まれていきます。その結果、心身の症状という形で、無理の限界が表れることがあります。
それはある意味で、魂の抗議です。
「このままの生き方ではもう続けられない」「役割だけではなく、もっと深いところの自分を取り戻してほしい」そうした心の訴えとして現れているとも見えます。
もちろん、苦しい最中に無理に意味づけをする必要はありません。まずは休養と安全が第一です。ただ、症状が少し落ち着いてきたときに、「自分は何に縛られていたのか」「本当は何を大切にしたかったのか」を見つめ直していくことは、単なる一時的回復ではない、より深い立て直しにつながっていきます。

かまくら相談室でのカウンセリング方針
かまくら相談室では、仕事や職場ストレスに対するカウンセリングを、単なる愚痴の整理や気分転換で終わらせるのではなく、回復の段階に応じて、現実と内面の両方を支える作業として行っています。
1.まず大切にするのは、安全と休養です
職場ストレスが強い時期には、こころの整理以前に、心身がかなり消耗しています。そのため最初に重視するのは、今の状態の見立てです。
眠れているか。食べられているか。
仕事に行くとどうなるのか。
涙、動悸、腹痛、希死念慮などはあるか。
このまま出勤を続けることが危険ではないか。
この段階では、無理に前向きになることよりも、安全を確保することが先です。必要であれば休職や受診も視野に入れます。「休むのは逃げではないか」と感じる方も多いのですが、消耗しきった状態で無理を続けることは、回復を遅らせることがあります。休養は、立て直しのための大切な治療の一部です。
2.次に、何が起きているのかを理解していきます
少し落ち着いてきたら、今の苦しさがどのような仕組みで起きているのかを整理していきます。
何が一番のストレスになっているのか。
どんな場面で特につらくなるのか。
どんな考えが頭に浮かびやすいのか。
身体にはどんな反応が出るのか。
誰との関係で緊張が強まるのか。
このように整理していくと、漠然とした「もう無理だ」という感覚が、少しずつ理解可能なものになっていきます。それだけでも、心の混乱はかなり和らぎます。

3.現実的な問題解決を一緒に考えます
職場の苦しさは、内面理解だけでは解決しません。現実に調整すべきことがあるなら、それを扱う必要があります。
たとえば、
上司や同僚との距離の取り方
業務量や役割の見直し
断ること、相談することの練習
境界線の引き方
社内で誰に何を伝えるか
復職するか、異動を願い出るか、転職を視野に入れるか
こうしたことを、その方の状況に合わせて具体的に一緒に考えていきます。かまくら相談室では、ただ気持ちを受け止めるだけでなく、働く現実の中でどう動くかという点についても助言を行っています。
4.さらに、その人の内的パターンを見つめていきます
状態が安定してきたところで、より深い理解へ進みます。
なぜ自分はここまで我慢してしまうのか。なぜ上司の言葉が必要以上に刺さるのか。なぜ助けを求めることがこんなにも難しいのか。なぜ「働けない自分」に強い恥や罪悪感を感じるのか。
ここには、その人の性格傾向だけでなく、これまでの対人関係や育ってきた文脈、背負ってきた役割意識が関わっていることがあります。この理解が進むと、単に「今の職場をどうするか」だけでなく、今後も繰り返しやすい苦しさのパターンそのものが見えてくるようになります。
この作業は、再発予防にもつながります。環境が変わっても同じ苦しさを繰り返さないためには、内側の反応の癖を理解することが大切だからです。

カウンセリングを受けると、どのような変化が期待できるのか
仕事や職場の悩みでカウンセリングを受けると、すぐに職場が理想的に変わるとは限りません。しかし、多くの方に次のような変化が起こっていきます。
まず、何が辛いのかを言葉にできるようになります。それまで「全部が苦しい」としか感じられなかったものが、少しずつ整理され、悩みに距離ができて、対処可能な問題として見えてきます。
次に、自分を追い込む考え方や反応パターンに気づけるようになります。「また頑張りすぎていた」「断れない自分がいた」「相手の機嫌を過度に背負っていた」そうした気づきが生まれると、苦しさのループから少し距離を取れるようになります。
さらに、休むこと、相談すること、境界を引くことへの罪悪感が少しずつやわらぎます。その結果、現実的な行動選択ができるようになります。復職、配置転換、働き方の見直し、場合によっては転職なども、衝動ではなく落ち着いて考えられるようになっていきます。
そして最も大きいのは、「役割に追い詰められている自分」から、「自分の人生をどう生きたいかを考えられる自分」へ少しずつ戻っていけることです。この変化こそが、症状の一時的改善にとどまらない、治療的な意味を持つ回復だと考えています。
医療連携や家族への説明も大切です
仕事のストレスが強い場合には、カウンセリングだけで抱え込まず、必要に応じて医療と連携することが重要です。診断書が必要な場合、休職のために受診が必要な場合、睡眠や不安の症状が強い場合には、医療機関との連携が回復を支えます。
また、ご本人が非常につらいときには、家族にどう説明するかも大切な課題になります。外から見ると「仕事に行けないのは甘え」に見えてしまうこともあるからです。そのため、必要に応じて、家族にどのように伝えるか、周囲にどう理解を求めるかについても一緒に整理していきます。

「環境が悪いのだから、自分を見つめても意味がない」のではありません
職場環境に問題があるとき、自分を振り返ることが「被害者側に責任を押しつけること」のように感じられる場合があります。その懸念はもっともです。だからこそ、かまくら相談室では、環境の問題を軽視しません。
ただ同時に、自分の内的パターンを理解することは、自己責任論とは違います。それはむしろ、自分を責めずに、自分の反応の仕組みを知ることです。環境調整と自己理解、その両輪がそろうことで、現実的で持続的な回復が進みやすくなるでしょう。

最後に
仕事や職場のストレスで心や身体に症状が出るのは、弱いからではありません。むしろ、長く頑張ってきた人ほど、限界まで無理をしてしまい、ある日突然動けなくなることがあります。ぜひ、そうなる前にご相談いただけたらと思います。
かまくら相談室では、まず安全と休養を支え、次に現実の問題を整理し、そのうえで、なぜこの苦しさが起きたのかを深く見つめていきます。
ただ元の働き方に無理やり戻すことではなく、その人にとって無理の少ない働き方、生き方を再設計していくこと。そこに、カウンセリングの大切な役割があります。
仕事に行こうとすると苦しい。職場のことを考えるだけで眠れない。もう頑張れないのに、誰にも言えない。そのようなときは、一人で抱え込まずにご相談ください。今のつらさを整理するところから、一緒に始めていきましょう。



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