不安の分析



不安の裏側にあるもの
沢 さっき、「ちゃんとしてない人になるのが怖い」とおっしゃっていましたね。
冬美さんは、ずっとちゃんとしてきたんですか。
冬美 たぶん。親に心配かけたくなかったし。学校も休まなかったし。 就職もちゃんとしたところに入らなきゃと思ってました。
沢 ちゃんとしていることは、冬美さんにとって大事だった。
冬美 はい。大事というか……そうしないとダメだと思ってました。
沢 今も?
冬美 ……今も、かな。でも。
沢 でも?
冬美 最近、もう疲れたなって思う時もあります。全部やめたいなって。仕事も辞めて、しばらく何もしないでいたい。でもそんなことしたら、本当にダメになりそうで。
沢 ちゃんとしていたい冬美さんと、もうやめたい冬美さんがいるんですね。
冬美 そういうことですかね。でも、それって矛盾してません?

沢 していますね。
冬美 (笑)

沢 心って、結構矛盾しています。
冬美 そうなんですか。
沢 人と一緒にいたいけど、一人にもなりたい。変わりたいけど、変わりたくない。仕事を続けたいけど、辞めたい。どちらかが嘘ということでもないんですよね。
冬美 両方ほんとです。
沢 そうすると、不安というのは、その二つの間に立っている時に出てくることもあるかもしれません。(不安というと、私たちはつい「なくした方がいいもの」と考えます。でも、ときには不安の中に、二つの気持ちが隠れていることがあります。)
「このままでいいのか」という不安
冬美 でも、だったらどうすればいいんですか。仕事を辞めるのか、続けるのか。
沢 それは、まだ分からなくていいんじゃないでしょうか。

冬美 決めなくていいんですか。
沢 今すぐ決めなくても。冬美さんは、不安になると早く答えを出したくなるんですかね。
冬美 そうかもしれません。答えが出たら安心できると思って。
沢 でも、本当はまだ、「今までの生き方を続けたい自分」と、「少し違う生き方もしてみたい自分」がいる。その両方をちゃんと見たことがなかったのかもしれない。
冬美 ……はい。辞めたいなんて、あまり考えちゃいけないと思ってました。
沢 どうして?
冬美 甘えだと思うから。
沢 なるほど。
冬美 でも、そう言われると、辞めたいっていうより、少し休みたいのかもしれません。今の仕事が全部嫌いなわけじゃないし。
沢 少し変わってきましたね。最初は「仕事を失うのが怖い」だった。今は「休みたい自分もいる」。
冬美 そうですね。
不安がなくなってから進むのか
冬美 でも、何か変えるとしても、やっぱり怖いです。
沢 怖いでしょうね。
冬美 不安がなくなってから決めた方がいいですよね。
沢 そういう時もあります。でも、不安が全部なくなるまで待っていたら、ずっと決められないこともあります。
冬美 ……確かに。
沢 怖くなくなってから進むこともあるし、怖いまま少し進んでみたら、あとから少し怖くなくなることもあります。
冬美 不安なまま動くんですか。

沢 小さくなら。たとえば仕事を辞めなくても、有給を取ってみるとか。誘いを一つ断って家でゆっくり過ごす時間を作るとか。逆に、興味はあったけどやっていなかったことを、少しやってみるとか。
冬美 それなら、できるかもしれないです。

不安の向こうにいる自分
冬美 じゃあ、この不安は、なくさなくてもいいんですか。
沢 眠れないとか、生活に支障が出るくらいなら、もちろん少し楽になる方法をに考えた方がいいと思います。体が疲れていたり、現実に危険な状況があるなら、そちらを整えることも大事です。
でも。不安そのものを全部、「早く消さないといけないもの」にしなくてもいいのかもしれません。
冬美 どういうことですか。
沢 不安になる時って、まだ分からないものの前にいる時でもあります。今までの自分なら選ばなかったことを、これから選ぶかもしれない。今まで自分にはないと思っていた気持ちが、出てくるかもしれない。
冬美 新しい自分、みたいな?

沢 そうですね。少し大げさに聞こえるかもしれませんが。不安を超えていくことが、今まで知らなかった自分に出会うことにつながる場合もあります。
冬美 「超える」って、不安じゃなくなることですか。
沢 いや。不安があっても、それだけで引き返さなくなることかな。
冬美 ああ。
沢 不安をなくしてから生きるんじゃなくて、不安も一緒に連れていく。しばらくすると「あ、自分ってこんなこともできるんだ」とか、「本当はこういうことを大事にしてたんだ」と分かることがあります。
冬美 なんか、不安がなくなったわけじゃないけど。最初と少し違って見えます。少しですけど。
沢 少しずつ、そう思えてくるといいですね。
冬美 今までは、不安になる自分がおかしいと思ってました。

沢 不安になっちゃいけない、ちゃんとしなきゃというのがあったんでしょうね。不安の向こうに何があるのかは、すぐには分かりません。
でも、なにか見つかるかも知れません。



