不眠症について
- 沢雄司

- 2020年4月14日
- 読了時間: 7分
眠れない夜には、理由があります
不眠は「休めていない心」の現れかもしれません

昼間は何とかやれている。仕事も家のことも、表向きはこなしている。けれど夜になると、急に苦しくなる。
布団に入ると、今日の会話を思い返してしまう。「あの言い方でよかったのだろうか」「嫌われたのではないか」「もっとちゃんとできたはずだ」そんなふうに、頭の中で“ひとり反省会”が始まってしまう。
お風呂に入って少し落ち着いたはずなのに、ふと昔の嫌な場面を思い出す。寝る前になると、昼間は押さえ込めていた不安や後悔が急に浮かび上がってくる。身体は疲れているのに、心だけが休まらない。そして、眠れない。
不眠のつらさは、単に「睡眠不足でつらい」ということだけではありません。夜が来ること自体が少し怖くなり、眠れない自分を責め、翌日のことを心配し、その不安のせいでさらに眠れなくなる。そうした悪循環の中で、少しずつ心も身体も消耗していきます。
眠れないことは、意志の弱さではありません。むしろ多くの場合、がんばってきた人ほど眠れなくなることがあります。

夜にだけ、抑えていたものが浮かび上がる
不思議なことに、昼間はそれなりに動けるのに、夜になると急に気持ちが不安定になる方がいます。これは珍しいことではありません。
昼のあいだ私たちは、仕事や対人関係や家事の中で、ある種の緊張を保ちながら生きています。その緊張があるからこそ、なんとか役割を果たせる面もあります。けれど夜になると、外に向いていた意識が内側へ戻り、抑えていた疲れや不安、怒りや寂しさが表に出やすくなります。
夜のひとり反省会は、その典型かもしれません。
今日うまくできなかったこと
人にどう思われたかという不安
昔の失敗
言われて傷ついた一言
先の見えない将来への心配
こうしたことが、静かな時間になるほど次々と浮かんできます。とくに、お風呂や就寝前のように、外からの刺激が減る時間帯は、内側の声が聞こえやすくなります。その結果、休むはずの時間が、むしろ一番つらい時間になってしまうことがあるのです。

「眠れない」のではなく、「休息に降りていけない」
ユング派の感覚を借りて言えば、眠りは、意識から無意識へと静かに降りていく営みです。昼のあいだ張っていた力をゆるめ、自分を少し手放し、深いところへ降りていく。眠るということには、そうした側面があります。
けれど、心が緊張していると、この「降りていく」ということが難しくなります。
休んだら崩れてしまいそう。考えるのをやめたら不安に飲まれそう。じっとすると、嫌な記憶や感情が上がってきそう。だから無意識のうちに、心も身体も警戒を続けてしまう。
その状態が、いわゆる過覚醒です。疲れているのに神経が休息に入れず、眠ろうとするほど頭が冴え、身体も張ってしまう。不眠は、単なる睡眠技術の問題というより、安心して力を抜けない状態として理解した方がしっくりくることが多いのです。
かまくら相談室で、最初にしていること
不眠のご相談では、いきなり深い話から入るとは限りません。まず大切なのは、今の状態をきちんと見立てることです。
たとえば、
寝つけないのか
夜中に目が覚めるのか
朝早く目が覚めるのか
眠っても休まった感じがしないのか
いつから始まったのか
仕事、人間関係、家庭、体調、生活リズムに何が起きていたのか
こうしたことを整理していくと、「ただ自分がだめだから眠れない」のではなく、きちんと背景があることが見えてきます。それだけでも、少し安心する方は多いものです。
また、不眠が強いときには、気分の落ち込みや不安、食欲低下、出勤困難などを伴っていることもあります。必要があれば、医療機関との連携も視野に入れます。眠れない苦しさを、我慢比べのように扱わないことが大切です。

カウンセリングでは、何をしていくのか
不眠のカウンセリングというと、「寝る前にスマホを見ないようにしましょう」といった一般的な助言だけを想像される方もいます。もちろん生活リズムや睡眠習慣の整理は大切ですが、それだけで十分ではないことも少なくありません。
かまくら相談室では、主に三つの層を見ていきます。
一つ目は、睡眠を妨げている具体的な悪循環です。眠れないことへの焦り、布団の中で考え込む習慣、夜になると不安が強まる流れ、日中の無理の蓄積。こうした循環を一緒に見つけていきます。
二つ目は、夜に浮かび上がってくる心の内容です。ひとり反省会で何を責めているのか。どんな場面が繰り返し思い出されるのか。怒りなのか、恥なのか、悲しみなのか、不安なのか。ただ「考えすぎ」と片づけず、その内容を丁寧に受け取ります。
三つ目は、そもそもなぜそこまで緊張して生きているのかという、その人の生き方の土台です。休むことに罪悪感がある。人にどう見られるかが気になる。失敗を許せない。気を抜くと価値がなくなる気がする。そうした心の癖が、夜の不眠に深く関わっていることがあります。
ここに触れていくと、睡眠だけでなく、日中の生きづらさ全体にも変化が起こり始めます。

治療効果は、どういう形で表れるのか
不眠の改善は、「その日の夜からすぐ熟睡」という形だけではありません。実際には、もっと地に足のついた変化として現れてくることが多いです。
たとえば、夜に嫌なことを思い出しても、以前ほど強く巻き込まれなくなる。「また考えているな」と気づけるようになる。ひとり反省会が二時間続いていたものが、二十分で戻ってこられるようになる。お風呂や寝る前の時間が、少しずつ“自分を追い詰める時間”ではなくなっていく。眠れない夜があっても、「もうだめだ」と絶望しすぎなくなる。
こうした変化は小さく見えて、とても大きな治療効果です。なぜなら、不眠を本当に苦しくしているのは、睡眠時間そのものだけではなく、眠れないことにまつわる恐怖と自己否定だからです。
そしてもう一つ大切なのは、眠りが整うと、日中の心の回復力も戻ってくることです。物事を悲観しすぎにくくなり、人とのやり取りに少し余裕ができ、自分を責める勢いも弱まります。睡眠は、こころ全体を支える土台なのです。

薬を飲んでいても、相談する意味はありますか
あります。むしろ大いにあります。
睡眠薬や抗不安薬が必要な時期はあります。数日、数週間眠れていない状態では、まず症状を和らげることが大切な場合も少なくありません。薬で眠れるようになること自体が、回復の大きな助けになることもあります。
ただ、薬だけでは扱いきれない部分もあります。なぜ夜になると反省会が始まるのか。なぜお風呂で嫌なことを思い出すのか。なぜ休もうとすると不安が強くなるのか。そうした心の流れや背景を理解し、悪循環をほどいていくのは、カウンセリングが得意とするところです。
薬とカウンセリングは対立するものではなく、状態によっては併用することで改善が進みやすくなります。

夜・睡眠に関する ご相談内容
眠れないことが続いていても、「このくらいで相談していいのだろうか」と迷う方は多いものです。けれど、たとえば次のようなことが続いているなら、十分にご相談の対象です。
夜になると一人で反省会をしてしまう
お風呂に入ると嫌なことを思い出す
布団に入ると過去の失敗や不安が次々浮かぶ
寝つけない、途中で何度も目が覚める
朝早く目が覚め、その後眠れない
眠れないこと自体が怖くなっている
睡眠薬を飲んでいるが、根本的には整っていない感じがする
眠れなさと一緒に、不安、落ち込み、仕事のしんどさもある
睡眠の問題は、放っておくと気分や仕事、人間関係にも広がりやすい一方で、適切に手を入れると全体が立て直しやすい領域でもあります。
おわりに
眠れない夜には、その人なりの事情があります。ただ神経が高ぶっているというだけでなく、昼間には抑えていたもの、ずっと我慢してきたこと、言葉にならなかった感情が、夜になってようやく姿を見せている場合もあります。
だからこそ、不眠を「早く消すべき症状」としてだけ扱うのではなく、何があなたを休ませにくくしているのか夜に何が起きているのかを丁寧に見ていくことには意味があります。
かまくら相談室では、眠りの問題を通して、その方の心身の緊張や生き方の無理を一緒に見つめていきます。ただ眠る技術を増やすだけでなく、少しずつ「安心して休める自分」を取り戻していくこと。それが、睡眠の回復と、その先の生きやすさにつながっていくと考えています。



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